エネルギーエレクトロニクス新しい電力供給システムの課題と今後の展望

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西嶋仁浩 先生
取材にご協力頂いた方

崇城大学 情報学部 情報学科 電子通信コース
エネルギーエレクトロニクス研究所

西嶋仁浩 准教授
略歴
崇城大学エネルギーエレクトロニクス専攻博士後期課程を修了後、
大分大学で15年間教員を務める。
現在は崇城大学 情報学部 情報学科の准教授を担当。
IEEE Fukuoka Chapter Vice Chair(IEEE)・
次世代スイッチング方式電源産学委員会 幹事(日本パワーエレクトロニクス協会)・
電動モビリティーとエネルギーシステムの統合に関する
調査専門委員会 委員 (電気学会)
電子通信エネルギー技術研究専門委員会 委員(電子情報通信学会)も務めている。
受賞歴
IEEE PELS Japan ChapterYoung Engineer’s Best Paper of the Year
大分大学 学長表彰
西嶋先生の研究内容一覧

エネルギーエレクトロニクスとはどういうものですか?

西嶋仁浩 先生による解説

電気エネルギーを自在に操るための技術です。例えば、モーターを回す、スピーカーから音を出す、LED照明を光らせる、スマートフォンやゲーム機の
コンピュータ(半導体)を動かす、IHクッキングヒーターでフライパンを温めるなど、目に見えない電気エネルギーをコントロールして私たちの
身の回りのモノを動かします。

この技術のことを『パワーエレクトロニクス』と呼んでいるのですが、太陽電池のような再生可能エネルギーやバッテリーまで含めて取り扱うものを
『エネルギーエレクトロニクス』
と呼んでいます。

この言葉が最初に生まれたのは、崇城大学にエネルギーエレクトロニクス(EE)研究所ができた約30年前に遡ります。

i-phoneには、充電器の上に置くだけで充電できるワイヤレス充電システムが、採用されていますが、
EE研究所では、この当時から、電子機器や電気自動車のワイヤレス充電の開発を進めていました。

パワーエレクトロニクス

出展元:崇城大学 情報学部 情報学科 電子通信コース 西嶋研究室

エネルギーエレクトロニクスを使うことで、現在のエネルギー問題がどのように改善されるのでしょうか?

西嶋仁浩 先生による解説

今後、世界で15億台走っている自動車がこれから電動化され、カーボンニュートラル化のために住宅や工場、オフィスに
太陽電池がどんどん取り付けられていくことになる
でしょう。

このように、、環境エネルギー問題の解決に欠かせない領域においても、エネルギーエレクトロニクス技術が重要な役割を担っています。

電気自動車の充電ステーションやモーターを回すインバータ、太陽光発電のパワーコンディショナーといった装置もエネルギーエレクトロ技術で
できているからです。

西嶋研究室では、科研費事業注1として、さらには、日産自動車との共同研究として、電気自動車に太陽電池を搭載するための発電システム技術を開発中です。

太陽電池で車が走れるの?と疑問に思われるかもしれませんが、1kW程度の太陽電池を搭載すれば1日で30~40km走ることができます。
買い物や通勤であれば十分に賄える距離です。

西嶋先生と日産の共同研究

出展元:西嶋研究室|お日様の光で走る!(日産自動車との共同研究を含む)

※注1
2019年度 基盤研究(C) 19K04338 太陽電池搭載車における走行時の部分影の影響とその対策に関する研究
2022年度 基盤研究(B) 22H01479 走行中の部分影や日射量急変に対し最大限に発電できる車載太陽光発電システムの開発

エネルギーエレクトロニクスの普及に当たり、現在の課題となっている内容をご教授いただきたいです

西嶋仁浩 先生による解説

エネルギーエレクトロニクスの課題
  • 効率
  • 小型化
  • 信頼性

一つ目は、『効率』です。例えば、電気自動車のバッテリーを充電するときや、バッテリーからモーターにエネルギーを送るときに、
残念ながら100%の効率ではエネルギーを送ることができません。

パナソニックとの共同研究では、屋内配電を従来の交流電圧のコンセントに代わって直流電圧で配電する技術を開発中です。
太陽電池やバッテリーは直流で動いていますし、家電品の中の半導体ICやLED照明も直流で動いています。

崇城大学西嶋先生とパナソニックの共同研究

出展元:西嶋研究室|空間を演出する!(パナソニックとの共同研究を含む)

交流を介さないで直流で配電することで、無駄なエネルギー損失を抑制することができます。

二つ目は、『小型化』です。ノートPCの充電器(ACアダプター)が大きくて持ち運ぶのに邪魔だと感じたことはないでしょうか?
西嶋研究室が企業と共同出願した特許は、世界最軽量の充電器(ADAMON 65W / e-Power Solutions)で商品化されています。

同様に、電気自動車や再エネ発電システムにおいても、小型軽量化が求められています。

ADAMON 65W / e-Power Solutions

出展元:E-Power Solutions公式サイト

三つ目は、『信頼性』です。例えば、自動運転のセンサーやコンピュータへのエネルギー供給が不安定だと、
誤動作して人の命を奪ってしまうかもしれません。

もちろん、コストも重要です。電気自動車や太陽光発電を普及させるためには、いかにコストを低減できるかがカギとなります。

電動モビリティーの活用時は、電源がボトルネックとなりそうですが、ご意見を頂戴したいです

西嶋仁浩 先生による解説

電気自動車のボトルネック
  • バッテリーが高価で重たい
  • バッテリーの充電に時間がかかる

電気自動車のボトルネックの一つはバッテリーが高価で重たいこと。バッテリーだけで100万円以上、300kgほどの重さがあります。

そこで、車に搭載するバッテリーの量を減らすための有効な手段として、自宅だけでなく、コンビニ、スーパーなど、あらゆるところに
ワイヤレス充電ステーションを設置
して、行く先々でちょこちょこ充電する方法が検討されています。

西嶋研究室では、どんな車種にも互換性が保て、かつ低価格なワイヤレス充電システムの開発を進めています。

もう一つのボトルネックは、バッテリーの充電に時間がかかることです。コミュニティバスのように、住宅→駅→病院→スーパーを
循環するような連続運用が苦手です。

そこで、T-PLAN㈱、㈱リコーは、バッテリーを交換できる小型モビリティーの開発を進めており、西嶋研究室では、太陽電池搭載ガレージから
複数本のバッテリーを同時に充電できる安価なバッテリースワッピングステーションの開発に協力
をしています。

自律走行ドローンの充電にもワイヤレス充電や太陽光発電は役立ちます。ドローンも30分ほど飛んだらバッテリーが切れてしまうからです。

太陽電池を搭載したワイヤレス充電ステーションがあれば、農地のようにコンセントがないところであっても、
電気工事なしにドローンを無人運用できるようになります。

崇城大学には、1年生からでも実践的な研究に取り組むことができるエネクラスデザイン(エネルギーと暮らしをデザインする)サークルがあり、
学生さん達が、ビジネスプランコンテストにおいて『人とドローンを繋ぐワイヤレス充電』というテーマでNICT(情報通信研究機構)賞を受賞しました。

最後に、エネルギーエレクトロニクスの今後の展望はどうなっていくか、ご意見を頂戴できますと幸いです。

西嶋仁浩 先生による解説

再生可能エネルギーによる発電は天候に左右されます。例えば、太陽電池は夜や雨の日には発電できません。
そのため、オフィスや工場のカーボンニュートラル化を実現するためには、発電したエネルギーをバッテリーに蓄電して利用することが必須になります。

しかし、前記したようにバッテリーは高価です。そこで、電気自動車から回収された使用済みバッテリーを、再生可能エネルギーの蓄電池として
リユースする取り組みも進められています。

EE研究所では、NExT-e Solutions㈱と連携し、種類や劣化の度合いが異なるリユースバッテリーを組み電池として活用するための技術を開発しています。

西嶋先生とNExT-e Solutionsとの共同研究

出展元:西嶋研究室|クルマのバッテリーをリユース!(NExT-e Solutionsとの共同研究を含む)

自動運転車が、飲食店、コンビニ、遠隔医療など、様々なサービスを提供する未来においても、エネルギーエレクトロニクス技術が重要です。

スマホで様々なアプリを動かすためにはandroidやiOSのようなプラットフォームが必要になりますが、同様に、自動運転車において
千差万別のサービスを提供するためには、車内に搭載される様々な電子機器を動かすための配電プラットフォームが必要になるでしょう。

しかし、このような配電プラットフォームについては産学官で議論さえ行われていません。自動運転車の配電プラットフォームを他国に
握られてしまわないためには、太陽電池やバッテリーなどの素技術の育成のみならず、エネルギーエレクトロニクス技術まで包括した研究開発を
産学官で連携して推進していく必要がある
でしょう。

政府は、GX(Green Transformation)を推進するために20兆円規模の支援を行う方針を示しました。ぜひ、エネルギーエレクトロニクス技術の今後に注目をして頂ければ幸いです。

配電プラットフォームが必要