人間とAI、為替取引においてはどちらが優位になるのか?

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近年、開発並びに導入が積極的に行われているAI。統計モデルがベースとなっているためデータから未来の数値を予測することが得意です。
為替相場の変動パターンをAI(人工知能)に学習させれば、為替価格の予想も可能です。

そんなAIと人間、為替取引においてはどちらが有利になるのか?
機械学習や人工知能の研究をしている茨城大学大学院理工学研究科の鈴木智也教授に、有限会社グリーンアースが取材いたしました。

鈴木智也教授
取材にご協力頂いた方

茨城大学大学院/理工学研究科
鈴木智也教授
略歴
2005年東京理科大学大学院 理学研究科 物理学専攻 博士課程を修了。
2016年、茨城大学工学部知能システム工学科の教授に就任。
現在は、理工学研究科(工学野) 機械システム工学領域を担当している。
国際テクニカルアナリスト連盟(IFTA)の理事を歴任した実績があり、国際検定テクニカルアナリスト(MFTA)・国際認定テクニカルアナリスト(CFTe)・NTAA認定テクニカルアナリスト(CMTA)を保有。国内大手運用会社にてAIファンドの開発にも従事。
鈴木智也教授公式ホームページ複雑データサイエンス研究室

そもそもAIとはどんな仕組みなのか?

「鈴木智也教授による解説」

AI(人工知能)には、推論・探索や知識表現等の様々な伝統的分野がありますが、今回の題目においては「機械学習」を想定していると思います。
機械学習の仕組みを端的に言えば、入力情報とそれに対応する答えの関係性を機械に学習させる技法です。

機械には調整可能なバルブ(正しくはパラメータ)がたくさん付いていて、そのバルブを閉めたり緩めたりしながら望ましい答えが出るように調整します。
しかしバルブや入力情報の量が膨大であるため、コンピュータの計算力で量の問題を解決します。

さらにコンピュータは「高速性・大量性・自動性・不休性・客観性・安定性」において人間を超越しますので、
解きたいタスクをバルブ調整問題に置き換えることでコンピュータの恩恵を享受できます。これが機械学習(人工知能)の狙いです。

AIに食わせるデータはどのように収集していくのか?

「鈴木智也教授による解説」

為替市場は証券市場に比べて流動性が高いため、裁定機会が発生したとしても瞬時に消滅する(織り込まれる)傾向にあります。
そこで、データは時間的解像度が高いほど好ましいでしょう。

たとえば、Dukascopy社はティックデータを公開していますし、メタトレーダー(MT4やMT5)のヒストリーセンター機能からも
分足データの取得が可能です。さらに上記のように相場の予測難易度は流動性が関係するため、出来高も重要なデータとなります。

ただし為替市場は相対取引が主であるため、FX業者が公開するデータは自社のみの約定情報(約定レート・出来高)
および板情報(気配値・注文量)に限られますし、そもそも出来高の定義が約定量ではなく、約定回数に簡略化されている場合があるため、
ご自身が望むデータを公開しているFX業者を調べる必要があります。

Dukascopy社ティックデータ

出展元:Dukascopy社ヒストリカルデータ取得

AIを為替取引に用いるなら、どのような利用方法がある?

「鈴木智也教授による解説」

FX業者のように全ての板情報をリアルタイムで活用できるならば、板情報をAIに入力することで相場の変動方向は(短期ならば)予測可能です。
たとえば売り板と買い板の指値注文数が乖離していれば需給の偏りを意味するため、我々人間でも相場の方向性はある程度予測できるはずです。

当然ながら需要過多(需要>供給)であれば価格は上昇、供給過多(需要<供給)であれば価格は下落する圧力を受けます 。しかし先述のようにコンピュータは「高速性・大量性・自動性・不休性・客観性・安定性」にて人間を超越しますので、 24時間フルタイムで相場を監視させ、さらに有事において自動高速対応させる点にAIの利用価値があります。

AI vs 人間 為替取引ではどちらが優位なのか?

「鈴木智也教授による解説」

繰り返しになりますが、「高速性・大量性・自動性・不休性・客観性・安定性」においでAIが優位です。
しかしAIにはフレーム問題により、与えられたデータ以外の思考は全くできず、いわゆる「なぞなぞ」のように論理を飛躍させて発想することができません。

為替相場の基本的な変動要因は金利と物価なので、FOMCや日銀の思考回路(金融政策のムード)を読み解くことは「なぞなぞ」に相当するでしょう。
したがって、短期的な需給の歪みを捉えるのはAIが優位ですが、中長期的な局面判断においては人間が優位です。

今後AIは為替取引にどのように活用されていくのか?

「鈴木智也教授による解説」

これまで述べたように、短期ほどAIが優位ですが、売買スプレッド以上に値動きする可能性が減るため、一般顧客のメリットは小さくなります。
しかしFX業者においては短期でも値動きを予測できれば売値と買値を最適化できるため、より顧客のニーズに合う価格提示(建値)が可能になります。

現在は流動性が低い新興国通貨ほど売買スプレッドが大きい状態ですが、AIの活用が進めばドル円並に小さくできるかもしれません。
このような顧客サービスの向上にAIが活用されていくでしょう。

最後に、一般顧客向きのAI活用法(見込み)を述べるならば、金利平価や購買力平価などの均衡価格からの乖離およびその修正メカニズムを利用した
「共和分ペアトレーディング」や、外国為替制度の盲点(たとえば五十日の商習慣による相場の歪み)をAIで24時間フルタイムで自動監視する方法が
考えられます。これらはMT4などでも実装可能です。

(参考)外国為替制度の盲点
・【論文】国内輸入に伴う貿易通貨比率とゴトオビアノマリーの関係
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafee/19/0/19_57/_article/-char/ja
・【YouTube】FXプロ×茨城大学教授 仲値トレードの神髄に迫る!

(参考)共和分ペアトレーディング
・暗号資産における共和分ペアトレード
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2020/0/JSAI2020_2L4GS1305/_article/-char/ja/