機関投資家が株式市場へ与える影響と役割

admin

株式市場には「個人投資家・機関投資家・外国人投資家」がプレイヤーとして取引に参加しています。
各プレイヤーの取引が株価にどのような影響を及ぼすか知っておくことは、非常に重要なことです。

そこで、有限会社グリーン・アースが「機関投資家が株式市場へ与える影響と役割」を
コーポレートガバナンス、マーケット・マイクロストラクチャーを専門とする名古屋市立大学/大学院経済学研究科の坂和秀晃准教授に取材しました。

坂和秀晃准教授
取材にご協力頂いた方

名古屋市立大学/大学院経済学研究科
坂和秀晃 准教授
略歴
東京大学経済学部卒業後、大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程を修了。
2009~2013年名古屋市立大学大学院経済学研究科の講師
2011~2012年テンプル大学Fox School of Business 客員研究員、
2017~2018年コロンビア大学日本経済経営研究所にフルブライト客員研究員を経験。
現職:名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授。
現在は、 会計ファイナンス学科:経営学専攻を担当している。
コーポレートガバナンス・マーケット・マイクロストラクチャーを専門としており、行動経済学会研究奨励・大阪銀行協会フォーラム特別賞の受賞歴がある。
坂和秀晃 准教授の論文一覧研究分野の紹介

機関投資家とは?どんな種類があるのか

「坂和秀晃 准教授による解説」

機関投資家とは、個人投資家のように小口で投資を行う投資家とは異なり、大口の投資を行う大口投資家を指します。
①「年金基金」・②「生命保険会社・損害保険会社」・③「信託銀行」・④「資産運用会社(Asset Management Firm)」などがその例です。

日本の金融市場では、海外・国内の双方の機関投資家が取引を行っています。

①「年金基金」の代表例としては、国内投資家で最大規模の投資を行うGPIF (Government Pension Investment Fund) が挙げられます。
GPIFは、将来世代の厚生年金給付金の一部に充てるための「厚生年金の積立金」を運用しており、200兆円弱の投資を行っています。

②「生命保険会社」の代表例としては、日本生命保険相互会社などがあり、自社の生命保険の契約者に対する「配当」を支払うために、
株式等にも投資を行っています。

③「信託銀行」としては、三菱UFJ信託銀行などがあります。「信託銀行」は受託者から信託された財産を管理・運用し、
財産を信託した委託者に、その利益を配分するという業務を行っています。

また、④「資産運用会社」には、投資信託会社・投資顧問会社などがあり、大和アセットマネジメントなどが例としてあげられます。
資産運用業務としては、投資信託などの運用を行う為に、各投資信託の運用方針に従い、株式などの資産に投資・運用を行っています。

機関投資家の種類
  • 年金基金
  • 生命保険会社・損害保険会社
  • 信託銀行
  • 資産運用会社

機関投資家の役割について

「坂和秀晃 准教授による解説」

機関投資家は大口の資産運用を行っていますが、その原資は、契約者から預かった財産になります。

①年金基金の場合は年金積立金
②保険会社の場合は保険の契約者が預かった保険料
③信託銀行の場合は財産を信託した受託者の資産になります。

加えて、機関投資家に原資を提供した年金加入者・保険契約者・信託銀行の受託者などは、中長期的に安定して、
確実にリターンを受け取れることを重視しています。

例えば、年金加入者にとっては、老後の生活の安定の為に、年金を確実に一定額以上に受け取れることが重要です。

従って、その為の資産運用を行っている機関投資家にとっては、年金積立金について、その安全性に配慮しながら、
ある程度の中長期の運用を行うことが重要になります。

その意味では、高リスクだが、高リターンが得られる可能性のある資産への運用は避ける傾向にあります。

機関投資家は、中長期に安定した収益を挙げられる投資先に投資する必要があるので、投資先の企業の経営状況について、
常に確認・監視(Monitoring)をしておく必要があります。

また、投資先企業の経営が改善(or悪化)することで、投資先企業がより安定し)収益を上げられる(or あげられない)と考えた場合は、
投資先企業の経営に対して、「物言う株主」として関与することも重要になってきます。

機関投資家は、大口の投資家として、投資先企業の株主の大株主になっていることが多いので、株主総会の場での議案に投票を行うことのできる
議決権を多く所有していることが多いです。

「物言う株主」としては、米国のカリフォルニア州職員退職年金基金であるカルパース(CalPERS)などが有名です。
2022年3月には、他の海外の機関投資家に賛同して、日本の東芝の会社2分割案に反対を表明するなどの行動も行っています。

機関投資家が株式市場に与える影響とは

「坂和秀晃 准教授による解説」

機関投資家が株式市場に与える影響としては、「物言う株主」としての投資先企業への経営の関与による影響が大きいです。
特に、積極的に企業経営に関与する機関投資家のことを、アクティビスト(“Activist”)と呼びます。

アクティビストは、企業経営を改善させるような株主提案を行い、その提案に基づき、企業価値が改善し、
「株価」が上昇した後に、投資先の株式を売却して、利益を挙げるような投資を行う機関投資家
になります。

その為、アクティビストなどの機関投資家の株式保有が増加したような企業において、株主提案が承認された場合、
その後の株価が回復する可能性が高いです。

具体的には、2020年の株主総会において、香港系資産運用会社『オアシス』が、社外取締役会の出身者が全員三菱グループ出身であることから、
「取締役会の多様性」を求めることや、企業統治を改善してより収益性の高い経営目標を求めることなどを提案しています。

これらの提案は、他の機関投資家の賛同も得られ、結果として、同社の株価は、2020年の株主総会後、上昇傾向を見せています。
このように、機関投資家の「物言う株主」としての議案提案とそれに基づく企業経営の変化の期待が、機関投資家の投資先企業の株価向上につながりつつある事例も出てきているように見えます。

機関投資家が取引を行う条件やタイミングの例

「坂和秀晃 准教授による解説」

機関投資家は、大口投資家として、運用を委託された資産に安定的なリターンをもたらすために、中長期的に安定した投資先に投資することが多いです。

また、機関投資家は、投資先の経営陣の経営方針が、企業価値を十分に高めないと判断したとき、まずは経営陣との対話を行い、
企業経営の改善を図ることを考えます。

特に、2014年以降、機関投資家には、「投資先企業の中長期の持続的な企業価値向上の為に、企業との持続的な対話を行うべきである」とする
日本版スチュワードシップコードが策定され、2017年・2020年の2回改訂されております。

加えて、2014年に経済産業省で策定された「伊藤レポート」では、株式会社における企業と経営者の対話により図るべき持続的成長の指標として
ROEを挙げ、ROE8%以上の達成を目標とした企業経営を図るべきであるとしています。

したがって、機関投資家はROEを高める銘柄への投資比率を高めることを重視しており、ROEの向上が見られる企業、
成長可能性の高い企業ほど機関投資家の買い取引が行われる可能性が高いです。

一方で、ROEが低下し、成長可能性の下がった企業では、機関投資家の売り取引が行われる可能性が高いと考えられます。

機関投資家の大口投資のタイミングを知るためには、金融庁が投資家の為の情報開示を行うシステムであるEdinet上の「大量保有報告書」を見ることも有用です。
機関投資家が5%以上の大株主になった場合、大量保有報告書で確認することができます。

あるいは既に5%以上の株式を保有する機関投資家が1%以上の株式の売買を行った場合には、「変更報告書」を提出する義務があります。
このようなルールを「5%ルール」といいます。

「大量報告書」には、機関投資家が企業経営を改善させるための株主提案などを行う場合に株式を取得した場合、
「重要提案行為」として記載する必要があるので、機関投資家の取引先に関する「考え方」を知ることが可能になります。