ダイバーシティ推進によるビジネスインパクトと実践方法

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多湖雅博先生
取材にご協力頂いた方

京都文教大学 総合社会学部
多湖雅博先生
略歴
甲南大学にて博士(経営学)取得。医療機関での管理職を経験し、千里金蘭大学助教、新潟医療福祉大学講師などを経て2021年より京都文教大学総合社会学部の講師を担当。
経営学の領域で組織行動、マネジメント、メンタルヘルスのを取り入れ、労働者と企業双方にとって利益的な組織開発について研究している。
著書
「経営理念・経営ビジョン/経営戦略」「職場の経営学:ミドル・マネジメントのための実践的ヒント」

職場におけるダイバーシティ推進が組織に与える影響とメリット・デメリットは?

多湖雅博先生による解説

メリット
多様な背景や価値観、考え方を持つ人が集まることで、さまざまなことに気づいたり、さまざまな選択肢を挙げたりなど、同じような考え方の人が集まったような組織では対応できない事象に対して、対応し得る可能性を持てると思います。この結果として、イノベーションにつながることもあると思います。

もちろん、これらを上手くまとめることは重要となります。職場における多様性を理解し、それらをお互いにリスペクトし、すべての人々がその能力を最大限発揮できるようにマネジントすることが重要であり、前提であるとは思います。

デメリット
多様な価値観や考え方を持つもの同士というのは、なかなか相いれないものと思います。人は自分に似た価値観や考え方を持つ人とコミュニケーションをとりやすいという傾向があります。そのため、自分と異なる価値観や考え方を持つ人とコミュニケーションをとることは少なくなって当然のように思います。

しかし、職場においては他者とコミュニケーションをとる必要がある場合もあります。その際、人によっては「こんなことを言って、馬鹿にされるのではないか」などのように思い、心理的安全性を脅かされると考えるかもしれません。このように、職場のコミュニケーションが不足することで、コンフリクトやセクショナリズムなどを生み出す可能性もあります。その結果、生産性の低下を招くかもしれません。

ダイバーシティ推進に成功した事例と、その事例が成功した要因をご教授頂きたいです。

多湖雅博先生による解説

インターネット上に多くの成功事例が掲載されていますが、概ねコミュニケーションの重要性を挙げています。

私も執筆に関わった『職場の経営学』(北居・大内, 2022)にも掲載していますが、ダイバーシティ・マネジメントの優れた実践例を紹介したいと思います。紹介するのは、多国籍の外国人雇用に焦点を当てた取り組みをしている介護や保育サービスを提供する社会福祉法人の伸こう福祉会です。

伸こう福祉会は、外国人を単なる労働力不足の補てんのためだけでなく、個性の多様性を大切にしながら成長を続けています。設立直後の2001年度の従業員数は121名でしたが、2016年には1123人を数えるまでになっています。利用定員数も、2001年度の158人から2016年の1814人と、10倍以上の伸びを見せています。また、2018年度のアニュアルレポートによれば、全スタッフ約1100余名の内、外国籍のスタッフ数は50名であり、出身国は20か国に上ります。

詳細は書籍をご覧いただきたいのですが、ダイバーシティを推進するには、採用時からしっかりとコミュニケーションをとり、外国籍でも日本人でも同じ評価をすることが重要です。実際にダイバーシティが進んでいる事業所の方が、職員たちの満足度や会社に対する忠誠度が高いという結果が出ているようです。

ダイバーシティ推進における対話型組織開発の役割は何になりますか?

多湖雅博先生による解説

対話型組織開発における代表的なアプローチであるAppreciative Inquiry(以後AI)を実施した場合、メンバー間の相談頻度や回数を増加させることが明らかになっています。また、AIは心理的安全性そのものにも効果があることが明らかになっています。つまり、対話型組織開発によって、心理的安全性を向上させ、それぞれの多様な価値観や考え方をお互いに表出し合えることになると考えられます。その結果、お互いに理解やリスペクトを深め、良い関係性を構築できるのだと考えています。

これらのことから、対話型組織開発はダイバーシティを推進させると言えるのではないでしょうか。

対話型組織開発の具体的な方法をご教授頂きたいです。

多湖雅博先生による解説

AIには決まった方法は存在しません。AIを実践していくための8つの原理(構成主義、同時性、詩的隠喩、予期成就、ポジティブ、全体性、体現、自由な選択)に則っていれば良いのです。ただし、よく使用されているモデルはあります。

それは4Dモデルと呼ばれているもので、Discover(発見)、Dream(夢)、Design(デザイン)、Destiny(運命)という4つのフェーズを循環させるサイクルモデルです。もう少し具体的に言うと、Discoverで強みや価値観を抽出・共有し、Dreamで理想の職場の未来像を抽出・共有する。そして、Designで理想の職場の未来像を実現させる宣言文の作成し、Destinyで宣言文を実現するアクションプランを作成し実施していくというモデルです。